考えても答えの出ないことを COKAGE 個展作品 2009.11

東松原『COKAGE』にて開催した第17回イラスト作品展『考えても答えの出ないことを』の個展作品をご紹介します。

※開催期間:2009年11月9日〜2009年11月23日

歯を磨く

目を覚ますと、
喉が渇いていた。
冷たいミネラルウォターを
コップへ注ぐ。

昨夜の溜め息が溶け込んでいるような気がして、
飲み残した珈琲を、
流しに捨てる。

歯ブラシをくわえながら、
部屋の中をぐるぐる回る。

朝の歯磨きが済んだら、
君に電話を掛けてみようと思う。

それが僕じゃないなら

ぺらぺらと流暢な日本語を話す。
僕は日本人だけれど、
いつもとはどこか違う。

この時間に、
この場所で、
この人とこんな風に話すのは、
間違ったことではない。
むしろ正しいことかもしれない。

ただ僕は少しだけ、
自分を遠くから眺めているような気分になる。

それが僕じゃないなら、
僕は何処へ行こうか。

ボタンの生涯

1番上のボタンは、
ひっそりと糸から抜け落ちた。
数日後、
男はようやくそれに気付いて、
悔しそうな顔をした。

3番目のボタンは、
勢い良く弾けて、
坂道を転がった。
とっても楽しそうに転がって、
最後はトラックに撥ねられた。

7番目のボタンは幸せ者さ。
1度はだるだるに緩んで、
それは惨めだったけれど、
今ではあんなに胸を張っている。

だって可愛いあの娘に、
付け替えてもらったんだもの。

信号無視

八百屋で果物を買った。

家へ帰り、
袋から1つずつ取り出して、
テーブルに並べる。

林檎、レモン、ラ・フランス。

腰を下ろして、
ぼんやりと眺める。

赤、黄色、青。
信号機みたいだなぁ。

3色とも信号無視をして、
同時に鮮やかな色を放っている。

正しいやり方で

君は素早く丁寧に、
首にくるんとマフラーを巻く。
僕は身体をすぼめ、
温かいままの両手をポケットへ収める。

ふわふわの帽子を被る人。
コートの襟を立てる人。
もこもことした手袋をはめる人。
みんなそれぞれのやり方で、
キラキラとした冬の夜を歩いて行く。

ポケットの中に、
丸まった紙切れを見つけた。
それは1年前、
君からもらったキャンディーの包み紙だった。

一挺の鋏

ちょきりちょきりと、
布を裁いていく。
朝から晩まで続く、
一挺の鋏の音。

洋裁のことは、
僕には分からないけれど、
それを洋裁と呼んで良いのか、
それすらも分からないけれど、
とても生き生きとした、
元気な音だった。

1週間程前から、
その音が聞こえない。
どこか他所の街へ、
越して行ったのだろうか。

僕は今日もこの部屋で、
ギターを弾いている。

蛇口からぽとりと

蛇口からぽとりと、
水滴が落下する。
それは洗面器にぺたりと着地して、
小さな水たまりをつくる。

のびのびとした、
自由なかたち。
それは海だったり、
雲だったり、
誰かの一部だったり。

顔を洗いながら、
ふと思う。
僕の60パーセントは、
一体何処からやって来たのだろうか。

よるずぼん

部屋の片隅に、
洋服屋さんの紙袋を見つけた。

「悪いことをしたな。」

買ったきり忘れ去られていた厚手のずぼんを広げて、
パジャマからそれに履き替える。

もうこんな時間だけれど、
一緒に出掛けようか。

少し離れた自動販売機で、
コカ・コーラを買う。

おちばについて

何故ここに、
落ち葉があるのか。

布団を広げると、
そこに落ち葉が現れた。
落ち葉について心当たりはない。
狐か狸に化かされたような気分になって、
床に付く。

お日さまの匂いがして気が付いた。

僕は昼間に、
布団を干したんだ。

考えても答えの出ないことを

スニーカーを履いて、
家を出る。
目的地を決めず、
ゆっくりと歩く。

こんな時は1本道が良い。
迷ってしまわないように。

考えても答えの出ないことを、
繰り返し考える。

僕は思う。

揺るぎないものを持って、
決して迷ってしまわないようにと。